2018年 第1号 Vol.180
 
 編集・構成 奥貫 晃

 
 発行人:今井 康了
 発行:日本特撮ファンクラブG
 

  はじめに
  6月18日に発生した大阪北部地震並びに、7月上旬に発生した西日本豪雨で被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。一日も早く通常の生活に戻られる事を心よりお祈り申し上げます。
 平成が残すところ1年を切りました。無意識に「平成=最近 昭和=過去」というイメージがありましたが、平成も過去になってしまうのかと思うと何とも年月の流れを感じてしまいます。そして今年に入りまた、昭和の作品を作ってきた先人が旅立たれてしまいました。

  訃報

 熊谷健さん
1月27日、脳溢血のため御逝去。享年80歳。

円谷プロダクション創成期よりのメンバーとして、第1期ウルトラシリーズ等で製作部スタッフとしてご活躍を経て、『怪奇大作戦』最終話「ゆきおんな」でプロデューサーに昇進、引き続きプロデューサーとして『恐怖劇場アンバランス』、『ウルトラファイト』を担当され、円谷プロの苦しい時期を支えてこられました。そして『帰ってきたウルトラマン』プロデューサー補、『ウルトラマンA』、『ウルトラマンタロウ』、『ウルトラマンレオ』プロデューサーとして、TBSの橋本洋二プロデューサーと共に4年間に渡る第2期ウルトラシリーズの舵取り役を務められました。また、『帰ってきた~』では怪獣デザイナーとして、シーモンス、シーゴラス、ベムスター、ブラックキング等、シリーズを代表する怪獣を何体も手掛けられました。更に小学館学年誌のコミカライズでは「野辺地隆」のペンネームでストーリーを担当され、プロデューサー業に止まらないご活躍をされました。中でも「小学三年生」版『~レオ』では東光太郎の後日談を描いた「ウルトラキラーゴルゴ」、ダン隊長が一度だけ変身する「復活!ウルトラセブン」は今でも未映像化が惜しまれ
るエピソードだと思います。『レオ』終了後は国際放映に移籍され、円谷プロで企画されていた『あばれはっちゃく』シリーズの立ち上げや、日本テレビ開局25周年記念番組、堺正章版『西遊記』を手掛けられました。1時間枠特撮番組の成功例として『西遊記』はもっと振り返られていいと思います。

 熊谷さんの作品を語る上で重要な二つの要素というと「家族」と「民話」でしょう。デビュー作である「ゆきおんな」がその二つの要素が入っているのが明らかですが、第2期ウルトラシリーズがそれまでの第1期作品と一線を画している特色の一つに「家族」を題材とした物語が多い事が挙げられます。第1期世代のファンの方々からは必ずしも良く思われなかった部分ですが、この部分こそが小津安二郎監督の作品に感銘を受け、映画の世界に入られたという熊谷さんの志向が最も出た部分だったように思います。また、『レオ』の日本名作民話シリーズに代表されるように民話への造詣が深く、第2期ウルトラシリーズはウルトラマンや怪獣の捉え方がどこか民話的なのも思えば熊谷さんのカラーだったのかと思わされます。取り分け『タロウ』最終クールの「日本の童謡から」シリーズは隠れた名作だと個人的には思っています。
G関係では『緯度G大作戦'96』トークショーのゲストに来て下さいました。その後も何度かお話を伺う機会に恵まれましたが、物腰が穏やかな方でした。円谷プロがTYO傘下になった際、離れて久しいにも拘わらず今井会長に「こんな事になってしまって申し訳ない」とご連絡をされたそうで、円谷プロの今後を気にかけておられたようです。同プロで会合を行っていたという第1期世代の方も、第2期ウルトラシリーズには批判的でも熊谷さんのお人柄については好意的に書かれていたのが頷けます。
慎んで御冥福をお祈り申し上げます。


 星由里子さん
 5月16日、肺癌のため御逝去。享年74歳。

'60年代、東宝映画黄金時代を代表する若手女優の一人として、『若大将』シリーズのヒロイン・澄子さん役をはじめ数多くの作品に御出演の後、'70年代以降はテレビを中心に幅広く御活躍されました。特撮関連では『世界大戦争』、『太平洋の翼』、ゴジラシリーズでは『モスラ対ゴジラ』、『三大怪獣 地球最大の決戦』の2作のみながら、昭和ゴジラ映画を代表するヒロイン女優の一人としてのイメージが強いです。取り分け『モスラ対ゴジラ』で、インファント島島民を説得する件は強い印象を残すシーンでした。そして平成に入り、昭和ゴジラ映画を観て育った世代である手塚昌明監督のデビュー作『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』で、主人公達を見守る科学者役を好演されました。 お歳を召されても品のある佇まいは東宝映画に相応しかったと思います。
慎んで御冥福をお祈り申し上げます。


 佐伯孚治さん
1月13日御逝去。享年90歳。

平山亨プロデューサーとは東映に同期に入社され、東京制作所の監督として、劇場映画『高原に列車が走った』、テレビ『プレイガール』、『刑事くん』に監督として参加されました。特撮関連では『ロボット8ちゃん』から『有言実行三姉妹シュシュトリアン』に至る全作に参加された「東映不思議コメディ」シリーズが代表作でしょう。東映以外の作品も多く、国際放映『泣いてたまるか』、円谷プロ『帰ってきたウルトラマン』、『ファイヤーマン』等に参加されました。作品歴でユニークなのは、東映の監督でありながらウルトラシリーズ本編に参加されたばかりか、『泣いてたまるか』では「おお怪獣日本一」、『シュシュトリアン』「ウルトラマンに逢いたい」と、円谷プロ以外の会社でウルトラシリーズに絡んだ作品を年代を隔てて複数作撮っている(『刑事くん』もあるかも知れませんが未確認)事が挙げられます。組合活動に参加されていた関係で監督の機会に恵まれない時期があったものの、その手腕から多くの助監督から慕われていたといいます。
慎んで御冥福をお祈り申し上げます。


 下塚誠さん
7月7日、肺癌のため御逝去。享年64歳。

『スーパーロボットマッハバロン』主人公・嵐田陽役、NHK銀河テレビ小説『早春の光』の他、刑事ドラマ、時代劇のゲスト等、多くのテレビドラマでご活躍されました。特撮作品では『大空のサムライ』零戦搭乗員役、『コメットさん』ウルトラマンタロウ人間体と、少ないながらも印象に残る役を演じてこられました。特に『大空のサムライ』では、着陸に失敗し炎上する零戦から辛くも脱出するカットを本編で撮影していたのが、特撮で川北紘一監督が撮った転覆炎上カットが余りの迫力だったため、そこで戦死になってしまったという、同作ではよく知られる裏話で、出番は減ってしまったものの逆に大変インパクトのある役となりました。2003年に東京・町田に居酒屋を開業され、ファンとの交流の機会を持たれていたそうです。
慎んで御冥福をお祈り申し上げます。

 橋本忍さん
7月19日、肺炎のため御逝去。享年100歳。
『羅生門』、『七人の侍』等、黒澤明監督作品はじめ、日本映画を代表する作品の数々の脚本を手掛けてこられました。特撮関連では『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』、『日本沈没』、『幻の湖』(監督)。特に『日本沈没』では上下巻に渡る膨大な分量の原作を約2時間20分の映画にまとめ上げた功績は大きいと思います。
慎んで御冥福をお祈り申し上げます。

  『ウルトラマンジード劇場版 つなぐぜ!願い』

 すっかり定着した感のある春公開のウルトラ映画。今回はテレビシリーズ終盤に続く沖縄ロケで、風光明媚な舞台によるスペシャル感もさる事ながら、何より金城哲夫、上原正三両氏の故郷という、ウルトラシリーズとしては縁のある土地が舞台なのは大きいでしょう。宍戸開氏の役柄が『キュウレンジャー』と被っている、(デリケートな事情があるとは言え)怪獣が現れても出動しない自衛隊に在日米軍と、引っ掛かる箇所はありましたが、メインキャラクターをジード、ゼロ、オーブ、そしてジャグラーに絞った事で、ヒーロー共演ものとして纏まった内容になっていました。また、ゲストの本仮屋ユイカ氏演じる比嘉アイル(因みに「比嘉」姓は沖縄県では現在では「金城」姓、「上原」姓を抜いて一番多いそうです)が年齢的にもこれまで余りなかった役柄で、主人公が10代後半という事もあり、華を添えていたと思います。

そのアイルが死んでしまうクライマックスには驚かされました。テレビシリーズではライハの両親が怪獣に殺害される回想シーンがありましたが、主人公が味方側の人物の死に接するという事では近年のウルトラシリーズでは異例の展開だったのではないでしょうか。近作では登場人物が命の危機に晒される事はあっても助かる、或いは死んだと思われていたが実は生きていたというパターンで、明るく健全な作風が身上のウルトラシリーズとしては登場人物の死について作り手は慎重なようです。これは『レオ』や『ネクサス』のように極端な方向へ行くと「こういう事はしちゃいけない」前列になってしまうし、描かなければどこか嘘臭くなってしまうしで、さじ加減が難しいでしょうが、今回はよく踏み込んだと思います。

 今後も7月から半年間テレビシリーズを放映、1月から半年間は再放送、再編集番組を放映、3月に劇場版という形式が定着してゆくのでしょうか。こうして何年か継続しているという事は、ある程度採算が取れていると思われますが、半年2クールとなった『X』以降のシリーズ構成を大雑把に見ると、7月に設定紹介編、12月に最終章の他、中盤には新アイテム登場やパワーアップ、他作品キャラクターゲストといったイベント回に話数が割かれるので、いわゆる通常回の比率が8月期と11月期の回ぐらいで、1年間放映していた作品に比べると低くなっている事が気になります。そして、好印象だった回はこうした通常回、一話完結のエピソードにこそ多いのです。シリーズの縦糸に関わるイベント回が悪いとは言いませんが、しかしウルトラシリーズ本来の良さはバラエティに富んだ一話完結エピソードの積み重ねだと思うのです。これは果たして古い考えでしょうか。『仮面ライダー』が連続ドラマに徹しているだけに、ウルトラシリーズは一話完結の面白さをもっと追及していいと思います(最終回の一つ前まで通常回だ
ったら、今ならかえって斬新でしょう)。

 [『ウルトラマンR/B』スタート]
 誰もが『バイクロッサー』を連想した兄弟ヒーローの設定ですが、複数のウルトラマンがレギュラーでも珍しくなくなりました。主人公(兄)がアパレルショップの店員と聞いても驚かなかったぐらい、民間人が主人公の設定が定着した感があります。一方でこれまでヴィートル隊やAIBとして最低限でも存在していた防衛組織がなくなり、代わって「アイゼンテック社」なる企業が登場しました。円谷で「アイゼン」と言えばあの作品ですが、これがどう絡んでくるかが今後の鍵なのでしょう。
 第1話、冒頭からウルトラマンと怪獣の闘いを見せ、そこから遡る構成や初めての変身への戸惑いと、掴みとしてはまずまずでした。特に変身のきっかけが、逃げ遅れて泣いている子どもを助けようという展開にはグッとくるものがありました(今回は「地球人がウルトラの力を授かる」パターンでしょうか)。ただ、変身のバリエーションは1話で一通り描くのは慌ただしく、徐々に見せていった方が良いのではと思います。
 第2話では朝練と称して自分たちの能力が如何なるものかをテストしたり、何故ウルトラマンである事を隠さなければいけないかを兄弟の会話で描くといった、これまで約束事だった事を改めて問い直すくだりがありました。ここ何作のように違い防衛組織の隊員だったり第1話以前からウルトラマンと何らかの関係があった訳ではなく、現時点では全くの一般市民が主人公だけに、こうした描写がある事は重要だと思います。兄弟の妹が前半は全く姿を見せず、唐突に終盤になって出てきたのは何か意味があるのか、また、アイゼンテック社がらみでやはり伏線がいくつかあるようで、本作のがこの先どんな色に染め上げられていくのか、見守ってゆきたいところです。

  『GODZILLA 決戦機動増殖都市』(ネタバレあり)

 アニメ版ゴジラ第2作『GODZILLA 決戦機動増殖都市』封切り2週目の土曜に観てきました。実は封切り3日目の日曜にGの会合があったのですが、なんと集まったメンバーでは今井会長以外がその時点で未見だったのです。Gスタッフならばこれまでゴジラ映画の新作となれば遅くとも封切り直後の日曜には観ている事を考えると前代未聞の事態と言えるでしょう。私が観た渋谷の劇場では客席の埋まり具合は1/3程度で、客層は特撮ファンというよりは出演声優のファンと思しき20代の男女が中心といった印象でした(それにしても宮野真守氏の声で「二万年」という言葉が出てくると、別な台詞を連想してしまうのは果たして私だけでしょうか)。因みに舞台挨拶では声優さんの内輪の話題が中心でゴジラの話題は殆ど出なかったそうです。
 とにかく世間一般のみならず特撮ファン、ゴジラファンの本シリーズへの注目度が低い事は確かなようです。 さて、本編まず冒頭、前作の粗筋紹介がないというのは連続シリーズ作品としてどうかと思いました。ただでさえ話に入っていきにくい内容なのでこれは不親切でしょう(同じ静野監督が手掛けていた『名探偵コナン』劇場版では毎作必ずオープニングで基本設定を一通り説明しており、同シリーズが20年以上続いているにも拘わらず客足を伸ばしている理由の一つはこうした配慮が大きいと思うだけに)。実際に今回でアニメゴジラを初めて観た知人がストーリーや人間関係がよく判らなかったと話していました。 そして何より、登場を匂わせデザインまでされていたメカゴジラが出ない!建造されたものの起動前にゴジラに破壊された事が前作で語られていましたが、本作におけるメカゴジラはその材料である金属・ナノメタルが自ら増殖し、2万年の年月を経て形成した「メカゴジラシティ」であって、少なくとも「ゴジラの姿形を模した金属製のロボット怪獣」ではないのです。SFとしてはユニークだとは思いますが、少なくとも自分が求めているものとは違う世界である事を痛感させられました。ナノメタルの設定からすれば、メカゴジラシティの地下が競り上がり、佐藤勝作曲「東宝マークM1」に乗せて300m大に進化したメカゴジラが現れる、なんて展開となってもおかしくないしついつい妄想してしまいましたが、実際の作品はとてもそんなムードではありません。主人公が苦渋の選択を迫られるクライマックスはかなり重い展開となりました。
 ちょうど前日に鑑賞した『宇宙戦艦ヤマト2202 第五章』が奇しくもクライマックスで同様の展開があり、観る側としてはかなり堪えてしまいました(そういえば『ゴジラ』と『宇宙戦艦ヤマト』の新作劇場映画が ほぼ同時期に公開されるのは今回初めてでは?)。 前作同様、アニメーションでしか出来ない表現でどうゴジラを見せてゆくか、徹底的に突き詰めていこうという姿勢は感じられ、志は決して低くはないとは思います。G関係のある人の指摘で、ナノメタルはオキシジェン・デストロイヤー的な存在ではないかという解釈にはなるほどと思いました。実写ゴジラシリーズ、東宝特撮へのリスペクトが随所に盛り込まれていましたし。しかし、より多くの観客に観て貰おうという姿勢はあまりに無さすぎるように思います。次作も劇場に観に行こうとは思いますが、ブルーレイやDVDソフトを買って手元に置いておこうとはあまり思いません。
  ラストは次回・最終章でのキングギドラの登場を匂わせて幕となりました。また、今回登場した小美人を思わせる双子の美少女や「卵」の存在からするとモスラ登場の可能性もありますが、キングギドラにしろモスラにしろ、今回のメカゴジラシティの件があるので果たしてどんな形で現れるかは見当がつきません(ギドラの場合ポスターのイメージから3匹の金色のマンダではないかとの声がありますが^_^;、そうだとしたらメカゴジラシティよりはマシな気がします)。批判的になってはしまいましたが、何にせよこの先製作されるであろう国産実写ゴジラ映画にとって、何かしら好影響を与えるシリーズとなって欲しいものです。

  『特撮サントラ黄金時代?』

 NHK朝ドラ『半分、青い』にマグマ大使が登場(?)、朝ドラのオープニングにピープロダクションの名前がクレジットされる日が来ようとは思いもよりませんでしたが、ピープロと言えば昨年末、同プロ関連の楽曲を可能な限り集めた『ピープロ全曲集』が発売されました。特筆すべきはこれまで行方不明とされていた『スペクトルマン』のBGMが一部にせよ収録されている事でしょう。『さとうきび畑の唄』の作曲で知られる寺島尚彦氏によるのジャズタッチの楽曲は独特のハイブローなタッチで、サントラライターの早川優さんが幼少時にこうしたテレビ番組の劇中音楽に興味を持ったきっかけが『スペクトルマン』だったというエピソードには頷けます。主題歌関連では『快傑ライオン丸』ED「ライオン丸がやってくる」はクリアな音質で聴くと児童合唱のボーカルと尺八の古風なタッチとエレキギターの現代風('70年代)のタッチを融合させた完成度の高さに今更ながら驚かされました。'70年代の特撮、アニメ、テレビドラマの音楽はどれも完成度の高さもさる事ながら、何より一曲一曲に強烈な個性があったように思います。6枚組 の内1枚はDVDで、『シルバージャガー』パイロットフィルムに『ちびっこ怪獣ヤダモン』でアニメと実写特撮の合成に挑んだ一編「チャンネル0の世界」を収録に加え、ブックレットの鷺巣詩郎氏のインタビュー・対談と盛りだくさんで、特に詩郎氏の「ピープロの社是は公私混同」には吹き出してしまいました。社是として普通あり得ませんが、この常識にとらわれない姿勢こそピープロでしょう。全集CDとしてはかつての通称『円谷15枚』('92年)、『怪獣王』('94年)に匹敵する企画と言っていいと思います。

  円谷作品関連のサントラは、発売が危ぶまれていた恐竜シリーズ三部作『ボーンフリー』、『アイゼンボーグ』、『コセイドン』ミュージックコレクションが無事発売されました。更に、十何年おきかに訪れるウルトラ関係のサントラ発売ラッシュは『エース』3枚組、『セブン』5枚組、『タロウ』3枚組とボリュームのある内容のものが発売されています。以前のサントラでは数曲をまとめて1トラックだったのが、現在では1曲1トラックが標準となり、曲毎の頭出しがしやすくなりました。但し、こうした工程には1曲毎に改めてジャスラックへの申請が必要なのだそうです。さて、今回のサントラ化で収穫は効果音の収録でした。中にはマザーテープからではなく本編の音声から採録したとおぼしきものもありましたが、特に嬉しかったのは『セブン』でお馴染みだった宇宙空間や無重力状態の音です。実際にそういう音がする訳では無いけれど、耳にすると納得させられてしまうこれらの音は正に"効果"音で、劇中の現実音である怪獣の鳴き声やメカ駆動音、爆発音といった音以上に、当時のスタッフのセンスの高さを実感 させられます。それにしても㈱カラーが企画進行中という『東宝円谷プロ効果音全集』は本当に発売されるのでしょうか。

 7月には10枚組『ウルトラ・マエストロ 冬木透音楽選集』(日本コロムビア)が発売との情報があったのですが、その後生産中止という話もあり、発売が中止なのか延期なのか微妙な状況となっています。前半のディスクには円谷ウルトラ関係の楽曲が収録されていますが、むしろ後半のディスクに収録の一般向けドラマ等のタイトルがこれまで商品化されてこなかったものばかりで興味を引かされます。
 
 ウルトラ関係の楽曲は前述のアルバムと被っていますが、他の作品となると単独で商品化は難しいと思われ、こうした形でないと出せないのでしょう。多少延びたとしても発売が実現して欲しいものです。テレビ関連では8月に『ズームイン!朝』や『ひるのプレゼント』等のテーマを集めた『宮川泰テレビテーマコレクション』が発売予定。多くの日本人の耳に馴染んでいるであろう曲の数々は、音盤化は初めてのものが多いでしょう。近年では配信が次第に主流になり、CDが売れなくなって久しく、見つけたらなるべく買える時に買っておかないといつまで流通しているかわかりません。じっくり聴く機会があまりないのは残念ですが、当時ならば廃棄されてもおかしくなかったこれらの音源を、商品として残して行く事は意義ある事だと思います。

  いろいろあるよ、いろいろね

 ・『日本沈没完全資料集成』が3月に発売されました。公開から今年で45年となる'73年版『日本沈没』について、現在可能な限りの現存する資料と関係者のインタビューを纏めた本書。製作の田中友幸氏、監督の森谷司郎氏、原作の小松左京氏、主演の小林桂樹氏、丹波哲郎氏と、メインの関係者の多くが故人となられてしまいましたが、クレジットされていなかった当時の若手スタッフのインタビューに、月岡貞夫氏がシュミレーション画面のアニメーションを手掛けていた件や、協力会社だった電機メーカーが名前を出せなかった事情等、新たに発見された情報がかなりありました(今井会長提供のシナリオが掲載されなかったのは残念ですが)。これまでになかった趣向の特撮映画として、会社やスタッフがいかに力を込めていたか、当時の熱気が伝わってくる内容でした。考えてみれば'70年代までの東宝特撮映画で、1冊で1作のみを扱った出版物はパンフレットやDVDマガジンを除けば『ゴジラ』第1作ぐらいで極めて少なく、そうした意味では画期的な一冊と言えるでしょう。

  ・『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は追加メンバーのルパンX/パトレンXが登場しました。両方の戦隊に所属しているという今作ならではの設定もさる事ながら、早々と双方に正体を明かしてしまうのには驚いてしまいました。しかしルパンレンジャーが変身前は正体を隠している事を考えると、Xはむしろ正体を最初から明かしてしまった方が話は転がしやすいかも知れません。戦隊シリーズは特に毎作、特撮やアクション、CGは一定のレベルは保っていて、良し悪しを決めるのは脚本と役者だというのが持論ですが、今作は両者ともかなり高いレベルだと思います。特撮も初期のスピード感全開の空中戦等レベルの高い映像を見せており、特撮研究所の底力を感じさせられました。それにしても果たして来年以降こうしたVS路線が継承されていくのか、それともオーソドックスな戦隊に戻るのか、『ライダー』が既に複数のライダーがライバル関係の設定が定着しているだけに気になるところです。

  ・終盤に入った『仮面ライダービルド』、個人的にここ何年かの作品で最終回まで観られたのは『フォーゼ』、『ドライブ』と3年おきで、今回この3年おきの法則が当てはまりそうです。どうもメカニックなモチーフの方が相性がいいようです。今更ですが気がついたのは、敵組織が送りこんできた怪人をヒーローが倒すという毎回のパターンは初期だけですっかり影をひそめ、新事実が明かされるか、新しい変身のバリエーションが登場するか、新たなライダーが登場するかがほぼ毎回のパターンになっている事です(主人公の父親が初期型のビルドに変身する件に「ダイバダッダが変身したレインボーマンを思い出した」とのコメントがネット上で散見されたのにはウケました)。尤も『仮面ライダー』第1作や『キカイダー』も終盤はショッカーライダーやハカイダーとの戦いがメインになっており、現在のこうした作りは制作費の事情(毎回新しい怪人の着ぐるみを造らずに済む)も含め、実は以前からの流れの延長線上ではないかと思います。それともう一つ、初期にはかなり力が入っていたバイク戦が、いつの間にかバイク戦はおろかバ イク自体が殆ど画面に出なくなってしまいました。その代わり闘いの場から退場させる手段が『スカイライダー』であれほど否定されていた飛行能力だったり、煙に巻いて瞬間移動だったりと、バイクが殆ど不必要になっているのです。確かに便利な設定(※)ですがこれでは「仮面ライダー」としてどうなのよと思ってしまいます。しかし場所から場所へ移動する描写を極力廃する事で(東都から北都、西都への移動は初期には丹念に描いていた)、その分ギャグを含めた登場人物同士のやり取りに尺を割いており、特有の脚本、編集のリズムがあるようです。そうした今風な中に『ビルド』は原点回帰的な面白さがあり、最後まで見届けていこうと思います。 ※話はそれますがガメラ映画に比べゴジラ映画の話作りの難しいところは空を飛べないためゴジラをどう退場させるかだと言われますが、『シン・ゴジラ』で画期的だったのはゴジラを「居座らせた」事だと今更ながら気付きました。何度も使える手ではないと思いますが。

 ・『炎の天狐トチオンガーセブン』劇場版がクランクアップとの事です。監督に新潟出身で『相棒』や『探偵はBARにいる』を手掛けた元東映社員監督の橋本一氏を迎えており、テレビシリーズとは違ったテイストの作品になりそうです(音楽のまついえつこさんの参加は現在のところ未定)。キャストでは佐々木剛氏(ナレーション)、真夏竜氏が出演されます。アマチュア発のキャラクターが商業作品として世に出ていくのはいろいろと大変なようですが、成功してほしいものです。ローカル局系のキャラクター作品と言えば、関東では東京MXで長期放映中の『武蔵忍風伝 忍者烈風』があります。同シリーズのプロデューサー兼監督の木川泰弘氏は病院の院長業が本業で、油揚げ職人が本業の『トチオンガー』製作、主演の星智弘氏共々、本業の傍ら作品を製作している情熱には驚かされると同時に頭が下がる思いです。これらの作品は決して大きな予算はかかっていない一方、玩具メーカーを筆頭としたスポンサーの絡みがないせいか、作り手がのびのび楽しんで作っているところがあり、そうしたところがメジャータイトルの作品とは違った魅力であ り応援したくなる処です。奇しくも『トチオンガー』はピープロ猫科モチーフヒーローが原形、木川氏は「平成のピープロを目指している」とコメントされており、異口同音にピープロを強く意識しているのが興味深いです(それぞれ『霊魔の街』、『妖ばなし』とホラードラマと抱き合わせになっている共通項も)。実際、両氏の作品がピープロのポジションを受け継いでる面は確実にあると思います。ローカル局制作の特撮番組はかつてはなかった事で、規模は小さいとは言えメジャータイトルのシリーズが中心となっている特撮キャラクター界に一石を投じる存在として、今後とも健闘を期待したいです。

  ・レジェンダリー版『ゴジラ』の情報が出始めました。予告映像で目を引いたのがかつての三枝未希のような役どころの少女が登場するらしい事で、怪獣の言葉を翻訳する機械が登場するらしい話も入ってきています。ラドンのビジュアルもチラッと見ましたが、いかにも西洋風にアレンジされた印象でした。キングギドラとモスラがどういったデザインになるのか気になるところです。前作『GODILLA』に比べアクティブな作風になりそうで、30年周期で'84『ゴジラ』から『ビオランテ』の流れを彷彿とさせます。東宝産の怪獣同士の対決は海外製作作品では初めてとなるので、どうなるか今後も注目していこうと思います。

   おわりに

 記録的な暑い日が続いておりますが、秋には例年通り『緯度G大作戦』が開催予定です。その日を目指してお互いこの猛暑を乗りきってゆきましょう。
 それではまた。