2019年 第1号 Vol.181
 
 編集・構成 奥貫 晃

 
 発行人:今井 康了
 発行:日本特撮ファンクラブG
 

  はじめに

 昨年9月に発生しました北海道地震で被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。1日も早く通常の生活に戻られる事を祈ります。
さて、改めまして、明けましておめでとうございます。
 『緯度G大作戦』今回は年明けの開催、会場はゴジラ第2形態が記憶に新しい蒲田、『特撮のDNA展』協賛企画として開催の運びとなりました。ご来場いただいた皆様、ありがとうございます。 ちょっと前になりますがf^_^;、夏から秋にかけて幾つか特撮関連のイベントに行く機会に恵まれましたのでレポートをお送りします。


  特撮のDNA展in明石

 一昨年の福島、昨年は佐賀で行われた『特撮のDNA展』、今回は兵庫県明石での開催となりました。猛暑真っ盛りの8月某日、JR明石駅から徒歩10分弱、瀬戸大橋をのぞむ小高い丘の上に会場はありました。客層は私ぐらいの中高年に夏休み時期とあってか家族連れが主流でした。
 さて会場は1階と2階に分かれており、撮影はなんと自由。1階は主に昭和の東宝特撮とテレビ作品がメイン、まず目を引いたのは入口近くにメカゴジラ2(色は『対メカゴジラ』に近かった印象)、そしてゾーンファイター(上半身パーツ)でした。いずれも当時物と思われ、傷んではいるもののそれだけに迫力を感じました。他にメカ関連は『宇宙大戦争』スピップ号、『怪獣大戦争』P-1号、『怪獣総進撃』ムーンライトSY-3号等、テレビ関連では『超星神』シリーズ関連のマスクが展示されていました。2階はゴジラ関連、『VS』、『ミレニアム』シリーズの着ぐるみやひな型が中心でした。近年の展示でお馴染みのものもありましたが、『GMK』で当初予定されていたバラン、バラゴン、アンギラスのひな型が目を引きました。写真で見た事はありましたが、現物は初めてで、直に見てみるとキングギドラ、モスラでなくアンギラス、バランだったら作品の印象は随分違ったのではないかと改めて思いました。更には若狭新一氏による造形メイキング映像、インタビュー映像のVTR上映の他、裁断されたゴジラ着ぐるみの一部が触れるようになっていました。福島ではあったミニチュアの材料が明記はされていませんでしたが、撮影自由の件も含め、大人から子どもまで楽しめる、夏休みに家族連れで楽しめる趣向になっていたように感じました。それと今回は福島の展示で中心だったガイナックス福島ではなく、ドリームプラネットと若狭進一氏が協力として深く関わっており、特に2階は川北、若狭両氏の作品が中心となっていました。同じ『特撮のDNA展』でも開催場所でかなり内容は違うようです。今回蒲田での展示は1月13日時点で未見なのですがどう違うでしょうか。

 会場では他に川北紘一監督の遺作となった『装甲巨人ガンボット あやうし!アベノハルカス』のダイジェストが上映されていました。川北紘一監督、大森一樹本編演出(!)という体制ですが、本作は大阪芸大の作品であり、俳優として同校の学生さんが多数出演しているようでした。プロが中心のスタッフの中で気になったのは音響効果が東映テレビ作品でお馴染みの大泉音映が担当していた事です。東映以外では国際放映『なかなか!ドジらんぐ』('87)と、僅かながら担当作がある大泉音映ですが、本作で直接の担当の小川広美氏は以前は東洋音響で『ゴジラVS』シリーズや『超星神』シリーズと川北監督作品を手掛けており、おそらくそうした縁での人選かと思われます。それにしても東宝映像美術と大泉音映が同じ画面にクレジットされているのはちょっと不思議です。

  東京ミステリーサークル 『シン・ゴジラからの脱出』

 東京・新宿歌舞伎町にある娯楽施設「東京ミステリーサークル」は、通常は推理ものを題材とした謎解きゲームイベントを行っている施設。『シン・ゴジラ』を題材としたこのイベントは昨年4月より10月までのロングランで行われていましたが、恥ずかしながら私は存じませんでした。終了間際の10月、Gとしては参加せねばと、Gと親交のある粕谷さんの誘いで今井会長、向畠と総勢4人で行って参りました。ゲームと言っても果たしてどんな内容のゲームなのか、ほぼ予備知識無しでの参加でした。内容は、ゴジラが東京湾から都内に上陸し、会場である歌舞伎町を目指しているという、映画『シン・ゴジラ』を模した状況の元、我々参加者は「巨災対」のメンバーとなり、4人1チームでゴジラ打倒の鍵となる血液凝固剤を作製するため、何段階かに渡って出題されるパズル形式の問題を解いて行き、時間内に全ての問題が解ければ作戦成功、解けなければ失敗というもの。ゲームの中でゴジラにまつわるキーワードやある場面の再現があったりはするものの、問題の多くはゴジラに関する知識や思い入れを競うものではなく、そのせいか我々のチームは時間内に問題を解く事が出来ず作戦失敗と、残念な結果に終わってしまいました(作戦成功のチームは40チーム近い中で半分に充たなかったので難易度は高かったようですが)。しかし『シン・ゴジラ』の見所の一つである、机上に紙を広げ、チームで討論しながら謎を解いてゆく場面を疑似体験出来るという事では上手い企画だと思いました。客層は20~30代ぐらいの若い世代が多く女性客も目立っており(そういえば今年、東横線で多摩川を渡っている時近くにいた20代ぐらいの男女のグループが「ここ『シン・ゴジラ』に出てきたよね」と会話していた事がありました)、若い層でも『シン・ゴジラ』は根強い人気があるようです。人気作のな要素の一つは作品を通して「遊べる」要素があるかどうかだと思いますが、こうしたゲームはそれまでのゴジラ映画ではなかった趣向で『シン・ゴジラ』のプレイバリューの広さを実感させられるイベントでした。

  熱海怪獣映画祭

 『キングコング対ゴジラ』のクライマックスや、『大巨獣ガッパ』中盤のガッパ上陸シーンと、1960年代怪獣映画で舞台となり、近年では『パトレイバー』実写版のエピソード「大怪獣熱海にあらわる」が記憶に新しい静岡県熱海市は、怪獣映画の舞台となった国内観光地の中でも強い印象を残しました。怪獣映画で熱海を盛り上げようと、同市出身もしくは在住の特撮関係者である脚本家の伊藤和典氏、長谷川圭一氏、音楽家の井上誠氏が中心となって企画されたのがこのイベントです。『ゴジラ伝説』ライナーの文中で井上誠氏が少年時代『キングコング対ゴジラ』を封切りで観た時に、観ていた映画館が熱海城の真下で大変な臨場感を覚えたという体験談が非常に印象に残っており、件の映画館だった建物である現在の国際観光専門学校でイベントが行われるというので行って参りました。

 上映作品は『キングコング対ゴジラ』を考えていたものの諸事情で実現出来ず、伊藤氏が熱海在住となって初めての脚本執筆作品という事で『ガメラ2 レギオン襲来』となりました。劇場で観るのは封切り以来22年振りになりますが、井上氏、伊藤氏に樋口真嗣氏を加えたトークショーが上映の前後にありました。伊藤氏は『ガメラ2』脚本執筆時は途中で行き詰まり夜逃げを本気で考えた事、「状況終了」は実際に自衛隊では使っていない事等が語られました。
上映作品が『ガメラ2』1本と、映画祭を謳っているならもう一つぐらい何か企画があっても良かったのではと思ましたが、熱海には現在映画館が1軒もない事をはじめ実現までにはいろいろとご苦労があったようで、来年以降の開催があるかどうかわからないようです。規模は大きくありませんでしたが、手作り感溢れるイベントでした。いつかは『キングコング対ゴジラ』 完全版をこの場所で観たいものです。関係者の皆様、お疲れさまでした。

 イベントの翌日、観たばかりの『ガメラ2』でヒロイン・穂波碧の母親を演じていた角替和枝さんが前日亡くなられていたと聞き驚きました。劇中では一人娘の部屋に男二人が入って気が気でない父親を押さえるという、緊張感あるストーリーの中で苦笑いさせられてしまうシーンが印象的だっただけにショックでした。
更に同日には『ガメラ対バルゴン』のヒロイン・カレン役の江波杏子さんが亡くなられていた事を後日耳にしました。奇しくもガメラ映画ゆかりの女優さんが同じ日に亡くなられる事となってしまいました。慎んでお二方の御冥福をお祈り申し上げます。

  SSSS_GRIDMAN

 一昨年暮れに本作の情報を得た時には、アニメという事もありそれほど大きな期待はしていなかったのですが、いざ蓋をあけ、終わってみるとこれはもう2018年最大の収穫だったのではという感があります。当初発表された学園青春ドラマのようなイメージビジュアルには少々違和感を覚えたものでした。前作『電光超人グリッドマン』では中学生が主役でも学校の場面は殆どなく、主役3人組の各家庭が主な舞台だったせいがあったのでしょう。それが今回は学園生活の描写がメインで、前作の基本スタイルだった、10代の少年少女3人組が主役、パソコンに宿っているヒーロー、身近な同級生が実は敵、といった要素は踏襲しつつ、幾つかの相違点があり、これが作品の大きな魅力に繋がっていたように思います。前作における武史の役どころは美少女・新条アカネと謎の少年アンチ君、コンピューターワールドではなく現実世界(実は仮想世界)に怪獣が現れる、怪獣の人間体が登場する(アノシラスのソフビ人形中古品が6話の放映を境にそれまで100円だったのが何千円かにハネ上がったとか)。更にアシストウエポンの人間体が登場する(この発想はありませんでした)。そうした中で最も前作と一線を画しているのは、初期のみとは言え新条アカネが気に入らない人物を殺害してしまっている事で、これはショッキングでした。今回は深夜アニメであるのに対し、前作は夕方放映の子ども番組であり、最後には武史が改心し仲間になる展開(これはおそらく当初より決まっていた結末でしょう)がある以上、悪事を働いて人を困らせる事はしても、殺したり傷つけたりといった取り返しのつかない事はさせられないという配慮があったと思います。それだけに本作は果たしてどんな結末が待っているのか気になるところでしたが、本作ならではの着地点になったと思います。何より最終回でのアカネ役の声優さんの泣きの演技には圧倒されました。

 そしてそんなアカネの部屋にところ狭しと飾られている怪獣にはつい目が行ってしまったのは私だけではないでしょうf^_^;。これも画面に映る怪獣の回毎のセレクトがそれぞれの回の内容と繋がりがあったり、随所にこれでもかと散りばめられた前作やウルトラシリーズはじめ円谷プロ作品絡みのネタにはニンマリさせられると同時に驚かされましたが、アカネが作った仮想世界ならばそういう事かと納得させられます。特に折り返しに当たる第6話はそれまでなかったそれぞれの登場人物同士の接触と世界観が明かされて行く話で、グリッドマンも怪獣も画面に登場しないながらやたら内容の濃いエピソードでした。特に劇中、アカネの「事情はあるだろうけど、怪獣を出さない回を作っちゃいけない」旨の台詞を「盗まれたウルトラアイ」をお気に入りエピソードに挙げる長谷川圭一氏が書いているかと思うと苦笑いしてしまいました。他にジャンクの電源プラグを引っこ抜く、主人公の裕太達が校外学習で怪獣に遭遇し、変身のためにジャンクを外に持ち出すといった、もしこんな状況だったらと思いながら前作では避けていた描写や、グリッドマンとアシストウエポン全てを同時に出動させようとするとデータが重くなり出動させられないので、別な回ではサイズを小さくする事で対応し成功するなど、バトルにシーンもこちらの思いもよらない展開があったりするのには作り手が楽しんでいるというか、良い意味で余裕を感じました。

 そして本作で何より大きいのは、観ていてアニメだからという抵抗を感じない事です。『グリッドマン』という事で『ゴジラ』や『ウルトラ』に比べ、アニメ化に対し観る側としては抵抗がない、作る側としては縛りがきつくないところはあるとは思いますが、前作の基本線は踏襲しつつ、今風の深夜アニメの要素を盛り込み、なおかつ前作のみならず円谷作品へのリスペクトも忘れない本作は、実写特撮キャラクター作品のアニメ化としては大きなエポックメイキングになったのではないでしょうか。昨年の『レッドマン』に続き今年は『グリッドマン』と、ウルトラ以外の、それもどちらかと言えば振り返られる機会に恵まれなかった作品なりキャラクターなりがこうして注目されている事は単純に円谷作品のファンとしては喜ばしい事です。某CDショップでは主題歌CDの売り上げが1位、カラオケ店の前を通ったら主題歌が聴こえて来る等、世間の反応も良いようです。1クールでの終了は残念ですが、円谷プロにとって、特撮キャラクター界にとって大きな財産になったのではないでしょうか。雨宮哲監督は子ども時代に『グリッドマン』を観ていた世代との事ですが、作品への思い入れと力量が上手く噛み合ったと思います。脚本の長谷川圭一氏以外の、監督はじめスタッフ、キャスト各氏のこれまでの作品はよく存じませんでしたが、クレジットされる名前が輝いて見えた作品でした。

  『GODZIllA 星を喰う者

 シリーズ完結となったアニメ版『ゴジラ』第3作、封切り2週目の日曜に観に行って参りました。遂に今井会長が初日に観に行かなかったと、世間一般のみならず特撮ファン、ゴジラファンの関心は高いとは言えないこのシリーズ、今回も相変わらず薄暗い画面での登場人物の会話が本編の多くを占める、キングギドラとモスラは登場はするものの全体像は見せないかシルエットのみと、取っつきにくさが目につきました。しかしそんな中、劇中で語られるゴジラとキングギドラの出自は怪獣とは単なる巨大な生物ではない、人智を超えた限りなく強大な存在だという怪獣観を突き詰めた壮大なもので、これからゴジラ映画を作っていく上で様々な形で影響を与えてゆくのではないかと思いました。『SSSS.GRIDMAN』と方向性は違うものの東宝特撮怪獣映画へのオマージュも随所に見られました。決して手放しで誉められる作品ではありませんが、実験作としての役割は果たしたのではないかと思います。後々観返せばまた違った観方が出来る作品かも知れません。

・主人公、ハルオと結ばれるフツア族の双子の美少女の一人、マイラ役の声優さんは上田麗奈氏、という事は円谷プロ的にはウルトラマンゼロと新条アカネのトンデモカップルという事に^_^;。

  いろいろあるよ、いろいろね

・前号で特撮サントラについて取り上げましたが、旧作についてはいろいろと出ているものの、現役テレビ作品の方は今一つ淋しい状況です。そんな中ウルフェスで『ウルトラマンジード』2枚組音楽集を購入しました。このサントラは一般のCDショップで見かけた事がなく、レーベルは何処かと思ったら円谷プロでした。テレビシリーズから劇場版まで、川井憲次氏による楽曲が収められており、各話毎の使用楽曲リストが掲載されているのには驚きました。Mナンバーはテレビシリーズから劇場版まで通しで打ってあり、近年のウルトラシリーズ劇場版はテレビシリーズ最終回と同時に製作されている様ですが、劇場版の曲まで当初の段階で録音されたのか、気になるところです。トラックNo.24~27は「リクのテーマ」と表記されているのですが、曲を聴くとは「伏井出ケイ」のテーマで、どうもミスプリントのようです。音楽集CDアルバムと言えば主題歌と並び音楽関連商品の主流でしたが、近年、ウルトラシリーズでは『ギンガS』以降はネット配信だったようで、これからますます配信が主流になっていくようです。こちらの方が価格が安い等メリットはあるのでしょうが、やはりディスクで手元に置いている事に安心してしまいます。

・福島県須賀川に2019年1月に『円谷英二ミュージアム』がオープン。各種ミニチュアの展示もさる事ながら見所は初代ゴジラが須賀川の街に現れる展示映像でしょう。『ゴジラ2000ミレニアム』、『ゴジラ×メガギラス』特殊技術の鈴木健二監督はゴジラの演出は18年振り(!)になりますが、ステージ一杯に組まれたミニチュアセットの中に着ぐるみのゴジラがいるメイキング写真にはやはりワクワクしてしまいます。早いうちに観に行きたいところです。

・一昨年発売された『東宝特殊美術部外伝』(上下)を書かれた長沼孝氏による『東宝特殊美術部の仕事』が刊行されました。『外伝』と同じく著者が在籍されていた'70年代半ばから'90年代初頭までの作品を扱っていますが、興味を引かされるのは映画、テレビの作品だけでなく観る事が困難な博覧会やテーマパーク、CM作品や他社の請負作品(ウルトラ関連だけでなく『マッハバロン』や『ボーンフリー』もわずかながら手掛けていたんですね)で、当時の東宝特殊美術部の幅広い仕事ぶりが伺えます。更に今回は制作されたミニチュアのリストが掲載されており、こういうものを目にすると無条件に嬉しくなってしまいます。CGが主流になりつつある昨今だけにこういった本は積極的に出していって欲しいものです。

   おわりに

 新年、2019年が明けました。皆さんにとっては2018年どんな年だったでしょうか?今年はアニメーションではありますが、個人的には『SSSS.GRIDMAN』が収穫でした。この作品をきっかけに今後特撮キャラクター作品のアニメ化が続くかもしれません。一方、来年公開のアメリカ版ゴジラ第3作となる『GODILLA KING OF THE MONSTERS』通称『ドハゴジ』の新たな予告編が公開され、期待が高まります。キングギドラ、ラドン、モスラのイメージビジュアルでは、それぞれ航空機の機種と位置関係の違いが気になりました。予告映像を観るとこれら4怪獣とは別な怪獣の登場もありそうです。それにしても巨大感の出し方のセンスが、日本人とは根本的に違うと今回も思いました。更には『ウルトラマン』の新作をアメリカで制作との情報が入って来ました。こちらも海外制作は初めてではないですが、昨今のテレ東ウルトラシリーズは頑張ってはいるものの製作費の面では常に苦しい現状だけに、いいカンフル剤となって欲しいものです。円谷プロは昨年よりディズニー出身の塚越社長となり、新しい風が吹きつつあるようで、良い方向に行ってほしいものです。

では、本年もよろしくお願い申し上げます。