2014年 臨時特別号
 
 編集・構成 向畠 正人

 
 発行人:今井 康了
 発行:日本特撮ファンクラブG
 

 『生頼範義展』と生頼範義かく語りき
 『我々はどこから来て、どこへ行くのか、我々とは何者なのか?』

 ゴーギャンの有名な言葉。
 表紙をめくると見開き両ページの下方にページをまたいでその言葉とともに一枚の細長い絵画が飛び込んできて目が放せなかった。
 もう15年以上前の高校生の頃の話である。
 それは世界史の授業で使う資料集(ビジュアル世界史/東京法令出版発行)を手にし、教室で初めてめくった時に受けた衝撃を今でも記憶している。
 その絵画は、両ページそれぞれに地球の写真を中心に色々な写真や図が載っている中の一つであったが、他のどの部分よりも異彩を放っていた。


 [サンサーラ]

 サンクリット語で「輪廻」を表す言葉。それがその絵画の題名である。

 ― その[サンサーラ]の原画を前にし、あの時の記憶が想い出としてではなく、実感として沸き起こり、目の前にしている現実との狭間で興奮と圧倒的な熱量に心臓の高鳴りではち切れそうだった…。

 2014年2月8日~3月23日、宮崎県・みやざきアートセンターで『生頼範義展』が開催された。2013年のSF大会で初めて開催が公式発表された。その情報を知ったとき、関東から九州へ行くという遠さを感じつつも同時に「こんな機会再び巡ってこないかもしれない!どんなことがあっても必ず行く!」と心に堅く誓った。
 それからというもの半年以上の間、本当に今か今かと行く日を一日千秋の想いでで待った。

 
 
高校時代に世界史のような授業で使っていた資料集
(ビジュアル世界史/東京法令出版発行)
ページを開くと【サンサーラ】が目に飛び込んできた
 生頼範義展が始まった2月8日()は都心では大雪が降った。翌週の2月15日・16日に宮崎行きを計画していたので、2月9日の飲み会の席で一緒に行くGの会長と「来週で本当に良かったですよね!」なんて笑いながら話をしていたのだが…まさか週続けて週末に大雪が降るとは思いもよらなかった…雪のため飛行機は欠航…。一緒に行くGスタッフとスケジュール調整をし三週間後の3月8日9日に延期した。

 結果的に本来なら宮崎行きと重なって、行くことができなかったはずの2月15日に高円寺Pundit’で開催された「生頼範義展」連動トークライブ『奇跡を体感せよ!生頼範義展を語る』に行くことができた。生頼範義氏の御子息である生頼太郎氏の貴重なお話、加藤直之氏・麻宮騎亜氏・開田裕治氏といったプロの画家の視点から見た生頼範義作品群の凄さといった話を聴くことできた素晴らしい時間だったのだが…それはより早く行きたいという気持ちをつのらせるばかりでそのうえ気持ちの標準も2月15日まさにその日にもう行く気満々だったので、それから週間というもの悶々と気が狂わんばかりの時間を過ごした。

 そして3月8日当日、とても長く感じざるを得なかった東京から宮崎までの道程を何とか耐え、共に行ったGスタッフを急がし、やっと念願の生頼展会場である、みやざきアートセンターにやってきた。

 『生頼範義展』  みやざきアートセンター 到着!

【無料スペース】

 「生頼範義展」が開催されている、みやざきアートセンタービルの5階でエレベーターを降りると受付がある。まずは受付右側にある無料・撮影OKのフリースペースに入ってみる。 
 その部屋入った時から一気に生頼ワールドの海に深く潜っていくように感じられた。

 その広い四角い部屋の中央に誰が付けたのか通称“生頼タワー”と呼ばれている巨大なピラミッドタワー状の棚に生頼先生が装画を描かれた本がズラリと並べ展示されている。
 また、そのピラミッドを囲むように壁にはどこを見ても生頼先生がたずさわった新聞広告・広告ポスター・映画ポスターが所狭しと展示されている。 

 みやざきアートセンターの1階エレベーターでは
宮本武蔵と幻魔大戦のベガが迎え入れる!
 吉川英治全集の三國志、宮本武蔵、コーエーのゲーム、ガンダムに資生堂、洋画や日本沈没やゴジラにスターウォーズのポスター、「こんな仕事もやっているのか!?これもそうだったのか!?」。 その後に原画を観てからもあらためて思うことだがその量・質に驚愕せざるえない。
 もちろんツイッター・ブログ等の宣伝効果を狙っているのであろうが、こんなスペースを無料かつ撮影OKにしてしまう大盤振る舞いにこの後の有料スペースへ行く前からテンションは上がりぱなしである。
 ただそれら本等の目録だけであまりに大量なこともあり、画自体は小さくても図録に載っていないのが残念だ…と言ってしまったらそれは贅沢過ぎるという話ではあろうが(苦笑)
 生頼タワー!
壁には所狭しと新聞広告が!
 映画ポスターも!

【ゴジラ】

 受付を通り受付左から有料スペースに入場すると、目の前に主催者の挨拶と生頼先生の略歴が書かれたものと『ゴジラジェネレーション (Character's art collection)
(画 ・ 生頼範義、開田裕治/出版社 ・モビーディック)の表紙に使われたミレニアムゴジラがでかでかと描かれた壁が現れる。

 最初からゴジラの原画コーナーだ!

 「メインディッシュの一つじゃないか!?初っぱなからゴジラか!スタートダッシュでとばすなぁ~!」と思ったのだがその先、そんな浅はかな自分の認識はくつがえされ、加速そのままに圧倒され続けられることになる…
 まずは歴代の劇場公開用のゴジラポスターの原画が年代順に並んでいる。

 どの作品も見慣れた画のはずなのにどれもこれも全く印象が違って見える。B全ポスターサイズより一回り大きいその原画たちと近くで対峙していると吸い込まれていくような錯覚に陥る。
 [ゴジラ(1984年版)]のポスターはポスターイラストの中で最も好きな作品だ。自分の中の理想のゴジラ像といってもいい。真っ赤で巨大なゴジラの顔の周辺で飛び交っている鳥たち、ゴジラの下で対比して立っているビル群が中心のゴジラに吸い寄せられていくスピード感、今まで気にならなかった細部にいたるまで映えるように計算された構図と力強さの存在していることに無意識に感じてていたことに原画を観て初めて気づかされる。

 初めて劇場で観て最も好きなゴジラ映画と言っても過言ではない[ゴジラVSビオランテ]。84ゴジラやVSキングギドラのポスターと比べてどちらかと言えば生頼先生イラスト版ポスターはあまり好みではなかった。しかし原画を前にしてみるとビオランテの植物の緑色の生命力の強さと鮮やかさ、触手たちから今にも鋭い雄叫びが聴こえてきそうな…いや、たしかに自分にはビオランテの声が聴こえてきた!

 もう最初の2枚から度肝をぬかれっぱなしだ!

 その躍動感たるや、VSキングギドラの巨大感と迫力、VSモスラの色彩の色鮮やかさ、VSメカゴジラの強烈なメカニックなメカゴジラデサインの格好よさに対比するラドンの生物感…もうどれをとってもずっと観ていたい…原画ならではの生の迫力がガンガンと伝わってくる。一枚の画ともっと長く対峙していたい欲求と次のゴジラの世界に、広大なイマジネーションの世界に飛び込みたい欲求が自分の中でぶつかり合うという興奮をともなった戸惑いを憶えながら足を前に進める。

 [ゴジラファイナルウォーズ]までの原画の後は、本などの付録ピンナップや表紙を飾ったゴジラのイラストだ。

 The30th Anniversary of Godzilla]国会議事堂襲う初代ゴジラ。『ゴジラ GODZILLA』(出版社/徳間書店 )のポスターに付録で付いているポスターの原画だ。生頼展の宣伝用チラシやポスターにも使われているこの画。自分の部屋にはその本に付録のポスターがフレームに入ってしかっり飾ってある。

 84版ゴジラ同様生頼レッド画全体の燃えるような赤は畏敬の生物の恐ろしさを感じさせられる。その画から伝わってくるドラマは激しく現在進行形で進行している「怪獣王」あるいは「荒らぶる神」それが生の実感としてその中に吸い込まれ見惚れるばかりだ。

 [東宝特撮映画全史](東宝株式会社出版事業室)の表紙並びに付録用ポスターに描かれた電車をくわえた初代ゴジラ。

 国会議事堂を襲うゴジラ同様このゴジラも衝撃を受け大好きな画で部屋にポスターが飾ってある。あまりの格好良さにただただ惚れ惚れする。

 [『平成ゴジラ大全1984~1995』(著者 ・ 白石 雅彦/出版社 ・ 双葉社)の表紙のゴジラ]本の表紙にしていて横や下の部分がきれて印刷されているためか?はたまた本より大きいサイズの原画のためか?こんなにも巨大感やその画の世界の奥行きを感じる。 またどの原画も印刷物ではわからなかった筆の勢いが感じられ、中には筆の毛が固まって画に引っ付いているものまであるその勢いがより画の迫力を増大し感じさせられる。

私の部屋に飾ってある
The30th Anniversary of Godzilla]と
THE MAKING OF GODZILLA 1985

【小松左京】


 ゴジラの次は小松左京作品の装画に使われた原画コーナーだ!

 70年代当時の小松左京の文庫本の生頼先生が装画を画いたカバーは表紙・裏表紙広げると一枚の画になるデザインの装丁だ。現在はバーコード等が付いていて色々厄介なのであまりそういった装丁は少ないらしい。

 小松左京氏が自分の文庫本の装丁に使われる原画が初めてあがってきて見た時「本当に日本人が描いたのか!?」と驚いたそうである。
 ミケランジェロをモチーフに統一されたものを中心にそれぞれの画はどれも小松左京作品の文学的であり哲学的要素を多分に含まれているテーマに合った硬質なデザインの画であり小松左京自身かなり気に入っていたそうだ。

【平井和正】


 
小松左京コーナーに続き同じSF作家の平井和正作品の幻魔大戦やウルフガイシリーズの原画コーナーだ。


 今までに生頼先生の作品の出版された画集は主に『生頼範義 イラストレーション』(出版社/徳間書店・1980年)、『生頼範義 198X年イメージ集』(出版社/講談社1982年)、『生頼範義 イラストレーションⅡ《幻間魔世界》』(出版社/徳間書店・1983年)、『神話 The BEAUTIES IN MYTHS』(出版社/徳間書店・1988年)の4冊である。その内『生頼範義 イラストレーションⅡ《幻間魔世界》』は正に平井和正の作品を集めた画集だ。自分は小松左京作品と違って平井和正作品は読んでいないので、作品に合っているかはよく分からないが平井和正氏自身が小松左京氏同様、生頼先生に絶対的に信頼を寄せているのだから間違いないだろう。そしてその画一つ一つ見ても生頼先生のイマジネェーションの豊かさに圧倒される。
 またこの作品群で多くの生頼先生の描く生頼宇宙と呼ぶべき明るい宇宙が堪能できる。暗く黒や紺で冷たいイメージの宇宙ではなく、緑や紫に輝いている宇宙、エキゾチックとさえ感じる宇宙…。原画はより鮮明な色でより明るい宇宙に思えてくるように感じさせらる。
 
70年代の小松左京作品の文庫本表紙
(いくつかの私の持っている文庫本)

 生頼先生の画集

 もうここまでの時点でテンションが上がり過ぎて頭がクラクラしてくる。この後も、近年の信長をはじめとする歴史上の人物のビジュアルイメージに少なからず与えたであろうコーエーの原画や吉川英治の小説世界を具現化し繊細でいて重厚で激烈な描き込みで描きだされた宮本武蔵、その人の人生の奥行や深み愁いを写しかもしださせるほどの人物・肖像画、SFアドベンチャーの表紙を着飾った女神たち、スターウォーズに映画、劇的な瞬間でありつつも機能美をものの見事に表現し追求し続けている戦記モノの原画と果てしなく続くのだから、一人の画家の尋常じゃないバリエーションと高い質に唖然とさせられる。
 私が敬愛する人物の一人である落語家・立川談志師匠がかつて漫画家・手塚治虫氏の偉業を称えて、「(作品の)質に量が伴って、初めて天才と呼べる」と言ったが、手塚治虫氏や以前この会報でも書かせていただいた小松左京氏同様に生頼範義先生もまた天才の一人なのであろう。

【ミューズ(女神たち)】

 5階から階段で4階に降りてSFアドベンチャーの表紙を着飾った女神たちの原画が展示された部屋へと進む。フリースペースに続きこのコーナーは撮影可。編集部から依頼を受けた生頼先生は女性を描く構想を『神話時代から現代まで、魔女のような存在はどうだろうかと考えている。イブからはじまって、できればケネディ大統領夫人のジャクリーンあたりまでどうだろか』(生頼範義展図録より)と語ったという。

 歴史を飾った美女たちをコンセプトに毎号1人ずつ7年以上描いた。どの美女も生々しく官能的な人物描写で画かれている。それらを集めた画集が『神話 The BEAUTIES IN MYTHS』だ。唯一自分が持っていない画集で、以前に一度だけ古本屋で見たことがあるのだが、あの時俺はなぜ買わなかったのかと本当に後悔している…
 
女神たちの居並ぶ部屋
 91枚のうち44枚の原画とラフスケッチが展示されていた。その中に2枚だけ額に入れた美女がある。それ以外はガラスも何も無い画がむき出しの状態。それらを額に入れたりするとお金がかかり高くなって予算的に大変だからだそうだ。それではなぜその2枚だけ額に入った状態かというと以前に生頼先生自ら世話になった知人に贈与したものだそうで今回、この展覧会が開催されると知り是非にと貸し出したものらしい。その内の1枚が[パリウナ]で、ローマ帝国衰亡史(だったか?)にたった一行しか出てこなかった女性だそうだ。他の美女達はどちからというと悪女だったり官能的な女性が多いのだが、たった一行からイマジネーションを広げ描かれた[パリウナ]の表情は優しさに満ちている。

 それまで図録の表紙を何にするかスタッフ間で色々な意見が出ていたのだが、原画の所在がどこにあるかわからなかったというその画が見つかり、スタッフの満場一致でその[パリウナ]に決定したそうだ。
 特典付チケットがこの女神たちの中から13枚載せたカレンダーが特典としてもらえた。


【スターウォーズ】

 日本のスターウォーズのムック本用に生頼先生が描いた画をジョージ・ルーカスが見て『スターウォーズ 帝国の逆襲』のインターナショナル版のポスターを是非にと発注したというのは有名な話。ギャラリートークでみやざきアートセンターの学芸員の方の話によればジョージ・ルーカスが生頼先生の家の庭にわざわざチャーターしたヘリコプターで降り立って会いにきたという都市伝説があるらしい()実際にはそんなことはないのだがジョージ・ルーカスは生頼先生に本当に会いたがってようだ。フリースペースに『グーニーズ』のポスターがあったが、どうやってスピルバーグ(映画『グーニーズ』の製作総指揮)は生頼先生を知ったのか?その頃、ルーカスとスピルバーグは同じ事務所で机を隣り合わせで仕事をしていたのだからルーカスから知るのは自然の流れだろう!といったこともギャラリートークで聴きくことができた。
 ルーカスに提示した[スターウォーズ帝国の逆襲]の5パターンのポスター構図案の下絵などの原画も展示しておりポスター原画の製作過程がわかりこれもまた興味深い話だった。

 
図録の表紙【パウリナ】

【映画・その他】

 [黄金の犬]のポスター原画の凛々しく野生の光を秘めた瞳を持つ犬から見つめられると題名の如くその犬がなぜか本当に黄金に輝いて見えてくる…映画本編で浜辺を走るシーンがフラッシュバックする。

 同じ犬を描いた画で同じくらい印象深かったのが[南極物語]の犬たち。南極のオーロラに照らされて何と幻想的なことか!

 そして[浪人街]のそれぞれの登場人物たちの渋さはたまらない!(田中邦衛のなんと渋くて格好良いことか!()


 タバコの広告のポスター原画などはほんの少し距離を離れてみると写真かと見間違えるほどの緻密さ!


【日本沈没・復活の日】

 2006年版の[日本沈没]のポスター原画が日本全体、北海道、東京、京都、九州と5枚がそれぞれ1167㎜×1167㎜という大きさで横一列に並んでいるのは圧巻の一言である。大スペクタクル映画のイラストを描かせたら生頼先生の右にでる者はいないのではなかろうか!?「映画より面白そう!」とか「映画をくってしまってる!」とか皆から言われるくらいなのだから!

 生頼先生を敬愛し信奉する樋口真嗣監督はこの圧倒的な大スペクタクルの躍動感を感じさせるこの画を実際に『日本沈没』を撮る前の時か撮った後かに見て、気後れさせてしまったのではないだろうか?()それとも撮る前だったのなら逆に負けないだけの映像を撮ってやると燃えさせたか?


 この画にはそれだけの膨大なエネルギーが煮えたぎっている!

 [復活の日]のイメージスケッチが多く展示されていたが今までに何かの印刷物に全て載っているのだろうか?半分くらいは『生頼範義 イラストレーション』に載っているがそこに載っていないのは自分は初めて観たと思う!ポスターや原作文庫本の表紙き描かれた画はこれらのイメージスケッチに描かれた人物たちをモチーフに再構成されて描かれたものだ。

 一枚一枚がどこまでも強烈にドラマチックで人間ドラマの重厚さがひしひしと伝わってくる。順々に観ていくとまるで一大歴史絵巻や大叙事詩を奏でているようだ。

 ああ…展示された作品だけでもここではまだまだ語りつくせぬ作品が山ほどある…。

 生頼範義というイマジネーションの大海に存在するどの画をとっても語りつくせぬ、語りだしたらキリがない魅力がそこにあった…



【サンサーラ】

 そして徹底的な資料の読み込みによって機能的にも絵的にも歴史的にも細密な戦史・戦記モノのすごい絵画群を経て、展示の最後にゴジラの原画と同じくらい最も観たかった原画[サンサーラ]…
 高校時代世界史の資料集で初めてこの画を知り畏敬の念を抱かせるような感動を憶え、すぐにこの画を描いたのがゴジラの生頼先生だとわかりさらに衝撃を受けた。
 その後まもなくして、[サンサーラ]を表紙に使った同じ題名を持つ本『サンサーラ―地球・宇宙・人間 我々はどこから来たか? 』(Ⅰ~Ⅲ/著者 ・ 松井 孝典/出版社 ・ 徳間書店・1989年 )を古本屋で見つけて即購入した。松井孝典氏による地球史・科学史・宇宙論・文明史をひとまとめにして論じた名著である。そんなテーマで大判の本にこの画しかないと思わせるほどぴったりで迫力のある装画だ。
 
『サンサーラ―地球・宇宙・人間 我々はどこから来たか?
(Ⅰ~Ⅲ/著者 ・ 松井 孝典/出版社 ・ 徳間書店・1989年 )
   
『神狩り2 リッパー』(著者: 山田正紀/出版社: 徳間書店・2005年)
の装画[我々の所産]は復活の日同様にこの[サンサーラ]を
モチーフに再構成されたものだとわかる

 その[サンサーラ]の原画のとなりには一枚の小さな写真のパネルが貼ってあった。

 [破壊される人間](油彩600号)

 
現在、鹿児島県の薩摩川内(せんだい)市川内歴史資料館に所蔵されているその画は生頼版ゲルニカとも呼ばれ、戦争によりしかばね化していく人間が描かれている。その強烈なインパクトにその画を前にして泣き出してしまう子供もいるらしい。生頼先生の若い頃からの抽象画の油彩の連作の一つでライフワークにしているテーマである。


 人間という文明を問う哲学は[サンサーラ]とはどこか共通のテーマ性を感じさせられる。展覧会の最後の作品がこの画と[破壊される人間]の写真のパネルなのだからこの2つの作品は生頼先生にとっても特別なのだろう。  サンサーラ…ビックバンがあって宇宙が誕生し、ファーストスター(宇宙で初めての恒星)が生まれ、そこから生物が発生して進化と絶滅を繰り返す。その中からホモサピエンスが歩きだし人間となり戦争を始めとする醜きものの上に成り立ち世界…そこには常に死の匂いが存在し、生命までも自由に生みだそうとする愚を犯す人間、その人間たちは種の進化として宇宙へ飛び出し進むべき未来は希望か絶望か…?

 その原画はガラスも無く手を伸ばし触れようと思えば容易に触れるこてができるが、そんなことは決してできぬほどの生頼先生の情念の如く画きつけられた熱気を帯びた生のキャンバスがそこに存在している。

 イマジネーションの海の中で「人とは何か?文明とは何か?」と真摯に向き合い、表現者・生頼範義という存在を示してその画の如く我々は何処に行くのか?と漂いながらも前に進み続ける…。


 そこに焼き付けられた一瞬であり永遠の宇宙の構築を目の前にすることで、この展覧会の宣伝コピー【奇跡を体感せよ!】の言葉の通りこの展覧会を通してこの展示されている最後の作品[サンサーラ]を前にして奇跡を体中に感じ、体感してきたのだと理屈ではなく本能で実感させられた…。


  本当に幸せの時間だった…。 
 
図録。カバーの裏表紙には【サンサーラ】が!
【今後…】

 商業用のイラストは生頼作品のみならず著作権利関係などの色々な事情でなかなか全国的な展示や出版が難しいらしいのだが、今回の『生頼範義展』は関係者のご尽力により生頼先生の地元の宮崎だからこそ開催出来た側面もあると聞いている。『生頼範義展』は最終的に入場者は15000名を超えた。また生頼範義展の公式facebookには「 まだまだ未確定ですが、国内外10箇所程度から巡回展の問い合わせもあり、今後の展開をどうしていくかを含め再度調整したいと考えております」 と載っているし、生頼先生のアトリエには未発表の大量の油彩画をはじめ展示することができなかった作品群が数え切れぬほどあるという。

 
今後、世の中に生頼範義という天才の名を轟かせ大きく展開されていくことを一ファンとして大いに期待し、切に願っている。